■オークションで生計をたてるということ
脱サラしてネットのオークションで生計を立てている男、「シオサカ(!!)」の話は以前の記事で書いた。シオサカ氏の場合、オークションに出品する商品は主に写真集だ。得に多いのはアイドル写真集。Gacktや中田英寿の限定写真集とかも売る。サラリーマン時代に小遣い稼ぎでオークションの出品をはじめ、ある程度収入の見込みが立ったので脱サラし、オークション業に一本化したというわけだ。
「いいなぁ、気ままな生活なんだろうなぁ」と感じる人もいるかもしれない。確かに、彼は性格的に気ままだし(笑)、サラリーマン時代とは比べモノにならないほど気ままな生活なのかもしれない。しかし、はっきり言っておきたいことは、副収入ではなく、「オークションで生計をたてる」ということは誰にでもできることではない。成功のためのバックボーンとなる豊富な知識や根気、努力が必要だ。人より秀でた知識や情報、努力を持っていなければ簡単にできることではない。資本主義の競争原理の最たるモノが垣間見える。
彼の一日の大半は古書の仕入れだ。いろいろなところへ足を運んで情報を収集し、アイドル写真集を値踏みする。新刊、古書店で売られている相場、オークションの落札予想値を比較して、利益が出るかどうかを査定するのである。
もちろんたくさんの出品の中には高額に跳ね上がるプレミア本もチラホラあって、それが利益を支える重要な柱になっている。しかし、プレミアというのは相場価格があって実はないようなもの。前回は1万円で売れたものが、今回は3千円で終わる、ということも少なくない。1万円で売れるまで出品し続けるという手法も趣味の範疇ならもちろんアリだが、ビジネスとして考えるならば客離れの素になることはすべきではない。
「最近の傾向では、プレミア本と言われる写真集の高騰は本当にごく一部だけに限られます。誰が見ても儲かるという写真集が少ないので、利益が出るタイトルの見極めはより難しくなってきてるんでしょうね」とシオサカ氏談。やはり、にわか仕込みでは、生計をたてるほど利益を出し続けるのは難しい。
■売り手の視点に立ってみる :
オークションは寝ている間にカネを生み出す道具?
さて、今回はネットオークションにおけるチケット販売を少し違った視点でみてみよう、というお話。
「寝ている間にカネが生まれる」「パソコンがカネを稼いでくれる」といったフレーズでビジネスの勧誘や起業を促進するコピーをたまに見るだろう。ノウハウを売ります、というアレだ。そのノウハウ(?)のひとつがオークションを副収入ビジネスにしようというものだ。副収入は誰だって欲しいし、おいしいと思うだろう。たが、それとて簡単な話ではない。
オークションで売るモノはいろいろあるが、その代表的な商品のひとつが「チケット」だ。イベントによってチケットの購入に長蛇の列ができるものもあり、高額プレミア化するものも少なくない。イベントや施設に行きたい人が仕事の都合などでチケットを獲れない場合など、正式な認可を受けたチケット取得代行業を利用するケースもある。そんなチケット市場だから、誰がやってもオークションで儲かるような気が、ついついしてしまうのである。そんなに甘いモノなのか?
先のビジネスのノウハウを売ります、の中には、アイドルや人気バンドなどのファンクラブや後援会に入会し、ファンクラブ特典の先行予約で購入したチケットを売れば、良い席が多いのでプレミア化して、素はとれるし利益が出る、とあおったりするものもある。純然たるファンが集まって運営されている多くのファンクラブでは、このようなチケット転売を迷惑行為として頭を悩めている。
また、インターネットマンの記事でも「プチ・ダフ屋」について触れたことがあるが、「行けなくなったイベントのチケットを売ったら思わぬ高額に跳ね上がった」ことがきっかけになり、足を踏み込んだ人もいるだろう。そういう経緯でなんとなくプチ・タブ屋になってしまった人は、チケットを転売目的で購入し、(主催者や講演者の許可なく)販売するのが違法であることを知らない人もいる。
三鷹にあるジブリ美術館は時間制/定員制の入場制限があるため、一時期高額なプレミア・チケットになった。そこに目を付け、106枚を購入してオークションで販売した主婦が東京都迷惑防止条例違反、ダフ屋行為で逮捕された事件を知っている人も多いだろう。小遣い稼ぎのつもりが犯罪をしていたことになる。また、2002年FIFAワールドカップ日本組織委員会(JAWOC)はサッカーW杯のチケットをネットオークションで販売することを禁止するという、異例の発表をした事例もある。
■プチ・ダフ屋も儲けるのは実は大変
あからさまなダフ屋行為は別としても、「チケットを転売目的で購入」とまで断定しきれないグレーゾーンで少量を販売し、実質は小遣い稼ぎをしているプチ・ダフ屋については是非が問われるところだが、もし、副収入ビジネスとか、いつかは脱サラと、にわか仕込みで始めるのであればリスクが大きいので思いとどまった方がいい、と言いたい。
オークションは副収入ビジネスとしては格好の舞台のひとつだった。過去形でいうのも変な話だが、しかしチケットのオークションの現状は今、バランスを失っている。経済は需要と供給のバランスが大切だということは高校生でも知っていることだろう。オークションもその典型だ。需要(買い手)が供給(売り手)を上回れば高値が付くし、需要より供給が多ければ見向きもされない。チケットのオークションはプチ・ダフ屋の大量参入で圧倒的に供給過多だ。チケットを買えさえすれば高額で転売できるという浅知恵は通用しない。高額で落札されているチケットはおしなべて良席に限るのである。人気アーティストのライブであっても、後方の席や階上の席では入札は付かない。おまけにオークションでダブ付いているにもかかわらず、正規の販売、すなわち(例え、買ったのがプチ・ダフ屋の人々が大半であったとしても)プロモーター側では完売しているので「追加公演」をあつらえたりする。そうすればオークションではまた人気がなくなり、下手をすれば定価で買って半額で売るという結末だ。チケットは期限付きのナマモノであるから、半額でも売れるだけましだ。チケットで儲けたいなら、確実に人気があるライブの見極めと、良席を確保する手法を身につける専門性が要求されるというわけだ。違法なタブ屋はもちろんのこと、グレーゾーンで小遣い稼ぎという考えも、「にわか仕込み」ならやめたほうがいいというのはそういうわけだ。以前の記事のように「先行販売(プレ販売)=良席のチケット」ではないことも念頭に入れておきたい。
そう言えば、例のお騒がせTATOOの東京ドームは、オークションの最安値が1枚850円だったらしい。プチ・ダフ屋には辛い経験になっただろう。また、東京ドーム開催の巨人戦62試合分の年間契約のペアの年間シート(191万4000円)を折半で購入し、ネットのオークションで転売して儲けようとしたが、ほとんど売れず、紙切れになる前に球場近くで直接売ろうとして逮捕された事例もある(4月5日Goo)。定価でも売れなかったというのだから、それが現実だ。チケット販売から撤退する人も増えるに違いない。
■買い手の視点に立ってみる :
チケット購入そのものがグレーだからオークションを利用?
ちなみに、今のチケット販売業界に疑問を感じる点もある。オークションの落札価格に現れるように、市場が良席とそうでない席に極端に異なる価値を見いだしているのにも関わらず、最前列も50列目も同じS席で料金均一にするのはおかしいと思わないか?
アリーナの最前列と1階スタンドの最終列が同じ価値の商品といえるのだろうか? しかも、それを買うときに確認できない、嫌な席だったときに返品できない、というのは違法ではないのだろうか。
チケット販売業界もずいぶんグレーだと思う。どうせ良い席はとれない、という客離れが始まる前に再考すべきだ。
話をオークションに戻すが、買う側に視点をうつすとこんな状態だから、かえってオークションを利用した方が良いという考え方もでてしまう。オークションで実券を買う際には、多くの場合、席の大まかな位置が明示されているからだ。販売開始日から数日が経過し、チケット窓口で買っても後ろの方の席しか買えない場合も、オークションで探してみれば、同レベルの席が激安で買えるケースも多い。どっちにしても思わず得した気分になる。これこそ市場が価値を決めるオークションの醍醐味だ。箱(会場)が大きければたいてい買えるし、行けなくなって売りに出している人も売れればきっとうれしいだろう。
そもそも高い金額でもいいから、チケットが欲しいと思っている需要があるからチケットが高額になる。カネを積んでもそのチケットが欲しい、良い席が欲しい、という人には、オークションはまさに楽園だし、それゆえプチ・ダフ屋も後を絶たないという弊害も生んでいる。オークションうんぬんだけの議論にとどまらず、チケット販売業界も含めて、考えていくべき課題ではないだろうか。
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