■NapsterやWinMXが注目される理由
WinMXの操作概要について、なんとなく解っていただけただろうか?
やりとりされているコンテンツや著作権侵害などに問題アリとして、とかく悪玉として報道されているNapsterやWinMXだが、インターネット上で個々のパソコンどうしが直接データやファイルをやりとりする「ピア・トゥ・ピァ」(PtoP)という技術は、分散型映像コンテンツ配信とも呼ばれ、業界ではとても注目されている技術なのである。

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今更ながら、パソコンのネットワークの歴史を振り返ってみると面白い。中央にデンと構えた高速大容量処理を可能にするサーバと、いくつかの入出力端末(クライアント)で構成される「サーバ/クライアント型」がネットワークの基本形だった。クライアントは画面とキーボードとわずかな頭脳だけで、ほとんどの処理は中央の高速サーバが処理する仕組みだ。しかし、WindowsとIntelパソコン(あるいはNetware)の普及により、入出力端末であるはずのクライアントは高性能になった。そこで、大規模なサーバを中心とした構成から、高性能になったそれぞれのクライアントどうしで直接やりとりする「ピア・トゥ・ピァ(ピアツーピア)型」のネットワークへと変貌するのである。

インターネット普及期にオラクルのラリー・エリソン氏が提唱したネットワーク・コンピュータ(NC)構想は、それを基本に回帰させるものだった。高性能で高価なクライアントを持つのをやめ、発展型の「サーバ/クライアント型」に戻ろうというのだ。インターネットは様々なネットワークの集合体と表現されるが、インターネット自体をひとつのネットワークと仮定した場合、ファイルのやりとりやその仕組みは大規模サーバと無数のパソコン(クライアント)で構成される「サーバ/クライアント型」ということができる(ただし、NC構想のように完全な端末思考は破綻したが)。

ナップスター、グヌーテラ、WinMXなどが実践しているのはこの仕組みにメスを入れる「ピア・トゥ・ピァ型」だ。ファイルのリストを決められたサーバ(もしくはその代理クライアント)に公開するものの、ファイルのやりとりはクライアント間で行う。サーバにアップロードされたファイルをダウンロードするという従来インターネットでは当然だった仕組みから逸脱したこの構成は、アクセスで混み合うこともなければ、替わりにサーバ側が決めたルールに従ってダウンロードする仕組みも存在しない。企業と消費者という構図もない。

ビジネスモデルも課金制度も覆る出来事になるかもしれない。

■交換の心理を探る

山岸:	相手がいることなので、WinMXでの「交換」も相手次第です。1ファイルどうしを等価と見る人もいれば、容量で等価を測る人もいます。それは様々なんですが、いずれにせよ、こちらがファイルのダウンロードを要求したときやダウンロードを始めたとき、相手は「参照」コマンドを使って、こちらの持ちファイルを確認したりします。こちらが提示しているファイルを見て、「こいつは仲間だ」「このファイルと交換しよう」などの心理が働いてダウンロードを許してくれるわけです。 そんな感じですから、例えば、誰かが自分のお宝画像をダウンロードしようとしているのを受けて、「参照」コマンドで相手のファイル一覧を見ますよね。そのときにポップスや主題歌などMP3ファイルばっかりが持ちファイルとして一覧され、欲しいお宝動画が交換できなければ、拒否(キャンセル)される場合があるわけです。つまり、同類のファイルを等価と考える人、さらには自分のファイルが3MBくらいだから、3MB程度のファイルで欲しいモノを相手が持っているか?とチェックする人、などスね。 相手がダウンロードを開始した際、マウスで右クリックし、 「参照」を選択すると、相手が持っているファイルの 一覧を参照することができる。 参照された相手のファイル一覧。 この中から交換したいファイルを選択する手法が確実。
iman:	そうなると、実際はもっと細かく持ちファイルは吟味されるケースが多いんだろうな。例えばアニメ主題歌のMP3を持っていて提供できる状態にしていても、ポップスが欲しいという要求には「なんでキミ、アニメ主題歌ばかりじや欲しいモノないよ」と思われればいっこうにダウンロードできない・・とか。
山岸:	そういうことです。また、WinMXではダウンロードしたファイルをそのまま交換用に提示するケースも多いので、1人のパソコンからダウンロードした人を加えて2人からダウンロード可能になり、またそれぞれからダウンロードした人のパソコンから、と、人気のファイルは、持っているユーザがネズミ算式に増えてダウンロード可能となっていくわけです。分散型の利点というか恐ろしいところというか(笑)。アッという間にみんなが持っているファイルばかり蔓延し、いつもダウンロードさせてもらうためには新鮮なファイルを用意する必要が出てきます。
iman:	そういうプロセスから、できるだけ多くの、更に多くの種類の、さらには新鮮で新しいファイルを用意することに奔走してしまうわけか。著作権を侵害したり、違法コピー配布と知ってはいても、ドンドンと深みにはまってしまうんだな。
山岸:	ですですねぇ。特に大容量のアダルトビデオ丸ごと、とか、アニメやドラマ1回分丸ごとの場合は200MB〜700MBもあるわけですから、そうそうダウンロードなんかさせてもらえない。でも欲しいから替わりにとっておきのお宝ビデオや人気のあるアダルトタイトルをMPEGにキャプチャーして用意するわけです。
iman:	次々に生成されて交換されると。
山岸:	それに価値あるお宝ファイルを作ると、持っているだけで相手がダウンロードしたいとアクセスして来ますでしょ。そうなればこっちのもんスよね。相手が欲しいファイルを持っていれば、ダウンロードを許可するし、持っていなければ門前払い・・・大容量なら長蛇の順番待ちができるので売り手市場のできあがりです。
iman:	それが前回言っていた餌をまくってことか? 逮捕された事件とか、なぜあれほどまで大量にソフトウェアを陳列するに至ってしまったのか、疑問に思っていたけど、なんとなく解ってきたよ。
山岸:	ですですねぇ。怖い一面ですよね〜。

■WinMXの先には
ブロードバンドを導入したら何をしたい?という問いかけに、「音楽や動画を思う存分楽しみたい」と応える人が多かったと、とあるアンケートにあった。特にブロードバンド環境でMP3ファイルをダウンロードして再生すると解ることだが、数秒から数分で聞きたかった音楽が手に入るということは、実に快適なことだ。そして、それが無料であればなおのこと。Napsterが爆発的な人気を得たことは誰しも頷けるだろう。しかし、その行為の多くが犯罪であった。これは同時に著作権問題に対して、シロクロ付ける時期が既に来ていることを示唆していることは言うまでもない。ブロードバンド環境は急加速で普及し、インフラが整備される一方、法的な整備やルールはまたもや立ち後れてしまった。
また、去る1月29日、日本音楽著作権協会（JASRAC）と日本レコード協会（RIAJ）、さらにレコード会社19社がファイル交換サービス「ファイルローグ」を運営する日本MMOに対して法的措置に踏み切った。WinMXで多くのアプリケーションをダウンロード提供可能にしていた件の逮捕事例を発端として、今後関連業界がどのように動いていくのか、注視していく必要があるだろう。

著者の神崎洋治が風邪をこじらせて気管支炎を患ったため、本来の構想より本文が短く完結してしまいました。お詫びいたします。より面白い原稿を提供するため、体調管理には十分気を付けますのでご寛容のほどよろしくお願いします。