■PSXは1回だけ録画可能番組をDVDに録画できない?
僕の周りのPSXとスゴ録ユーザーが不満をこぼした。
「うち、地上波デジタルを導入直前だったので、4月5日からはじまった1回だけ録画可能な番組について、うちのDVDレコーダーは対応しているのかな?」って調べたところ、PSXがCPRMに対応していないんです。HDDには録画できるらしいんですが」
スゴ録はCPRMに対応しているからそっちを買いなさいってことでしょ、と言うと今度は別のスゴ録ユーザーがため息混じりに嘆く。
「まいっちゃいましたよ部長。それがスゴ録もムーブ機能に対応していないんス」
むむむ。地上波デジタルの「1回だけ録画可能」、いろいろと波紋アリなのか? ということで、PSX、スゴ録、その他のメーカーの機種で調べてみた。
■デジタル放送と「1回だけ録画可能」番組
「地上・BSデジタルテレビ放送局では、2004年4月5日からデジタル放送番組の著作権を保護するために、「1回だけ録画可能」のコピー制御信号を加え、さらにB-CASカードの機能を利用した放送番組の暗号化を開始しました。」地上デジタル放送推進協会のWEBサイトにはそうアナウンスされた。ここで言う「1回だけ録画可能」とは、「コピーワンス」「ワンスコピー」「一世代のみコピー」「デジタル1COPY」などいろいろな呼び方をされている、CPRMという技術を使ったコピー制御だ。
「CPRM」とはContent Protection for Recordable Media「記録媒体用著作権保護機能」の略称で、暗号化を含む著作権保護技術のひとつ。DVDの規格としては、DVDビデオやDVDオーディオ、DVD-ROMなど再生専用メディア用の「CPPM(Content
Protection for Prerecorded Media)」と、DVD-RAMやDVD-RWなどの記録型DVD用のコピーガード技術「CPRM」がある。しくみについては僕の著書を読んでもらうとして(2〜3ページしか書いていないけど)、要するに特殊なコピーガード技術を用いて放送が配信されるようになり、違法コピー販売を防ぐためにも録画を1回だけに制限するようになったのが「1回だけ録画可能」(コピーワンス)の番組である。
で、地上デジタル放送では、CPRMの「1回だけ録画可能」が採用され、2004年4月以降から放送が始まったわけだ。すぐに地上デジタル放送を受信しない人でも、将来のことを考えると、使っているDVDレコーダーや買おうとしているDVDレコーダーがどう対応しているかは知っておきたいところだ。
■PSXは開発時よりCPRMに未対応
PSXは「1回だけ録画可能」な番組についての対応を下記のようにWEBサイトでアナウンスしている。
- HDDに録画できます。
- PSXはCPRM非対応であり、DVDへの直接録画機能がありませんので、ハードディスクからDVDにダビング/移動(ムーブ)することはできません。
CPRMは記録可能なメディア用に開発された物なので、DVDディスクに関して関連する話だ。だから「HDDレコーディングに関してはCPRMに対応していないPSXにも録画できる」(ソニー広報)。もちろんスゴ録もHDDに録画することができる。
ということでまずはひと安心してもらったとして、次なる疑問は「1回だけ録画可能」な番組をDVDで保存したい場合はどうするか? ということになるが、スゴ録では直接DVD-RWメディアに番組を録画することにより可能だが、PSXではどうにも不可能なことなのである。この点について、ソニーの広報では「PSXは発売当初よりCPRMには対応しないという仕様でしたので現時点で未対応」としている。アップデート等でのCPRM対応の予定もない。ちなみにCPRMに未対応ということは、DVDメディアに録画ができないだけでなく、ほかで録画した「1回だけ録画可能」番組をPSXで再生することもできないということになるので、今後は少し注意したい。
■主要メーカーのCPRM対応状況
他社のDVDレコーダーについてはどうなのだろうか?
CPRMに対応していないDVDディスクやDVDレコーダーでは「1回だけ録画可能」なデジタルテレビ放送を録画することはできない。だから、チェックポイントとしては、「CPRMに対応していないDVDディスク」と「CPRMに対応していないDVDレコーダー」とはなにか?
ということだ。
CPRMに対応していないDVDディスクとは、DVD-R、DVD+R、DVD+RWだ。これらのメディアには無条件に録画できない。残ったDVDメディアにはDVD-RAMとDVD-RWがあるが、更に言えば-RAMと-RWの「VRモード」なら録画が可能となる。
次に、CPRMに対応していないDVDレコーダーが存在するのかどうか、主要3社に電話してチェックしたがほとんど見あたらない。パナソニックのDIGAシリーズは全機種対応、パイオニアは世界初のDVDレコーダー『DVR-1000』を除いて全機種対応、東芝のRD-Styleシリーズも全機種対応だ。これらのメーカー製品を利用しているユーザーにとっては何も心配は要らないといっていいだろう。
RD-Styleの場合に少し補足すると、DVD-RAMと-RWに両対応(DVDマルチ)の機種もあるが、その場合は録画はDVD-RAMへの記録に限定される(RD-X4のみ拡張キットで-RWも対応)。これは「DVDのレコーディングメディアとしてはDVD-RAMをメインとして推進している」(東芝デジタルメディアネットワーク社
広報)ためだ。
■スゴ録はムーブ機能に対応していない
ところで現在は、HDDを搭載しているDVDレコーダーが主流だ。その場合は通常、番組をHDDにドンドン録画しておき、保存しておきたいものだけをDVDメディアにダビングするというスタイルが一般的だ。この場合、「1回だけ録画可能」な番組は「ムーブ」機能を利用してコンテンツを移動する。つまり、HDDに録画した「1回だけ録画可能」な番組をDVDにダビングするが、その際にHDDにあったコピー元の番組は削除される・・すなわちコピーではなくムーブ(移動)する・・・ことによって著作権保護管理されるわけだ(一度DVDに保存した番組はHDDに戻すことはできない)。上記、主要3社のDVDレコーダー製品に関して言えば、CPRM対応の機種はすべてムーブ機能にも対応している。安心だ。
ところが、スゴ録はなぜか、このムーブ機能に対応していない。CPRMには対応しているので直接DVD-RWに録画することはできるし、再生機能もあるが、一旦HDDに録画した「1回だけ録画可能」な番組をDVDにムーブすることはできない。
先出のスゴ録ユーザーの嘆きは続く。
「スゴ録は、あらかじめ好みのキーワードやジャンル、放送時間帯を設定しておくだけで、その条件に合った番組を電子番組表(EPG)から検索して自動で録画してくれる「おまかせ・まる録」がウリです。CMでも古畑さんがやってますよね。僕もそれにひかれて買いました。いわば番組をHDDにドンドン録画しておき、気に入った番組は後でDVDに保存というスタイルを推進しているはずです。それなのに「1回だけ録画可能」な番組は、他社のレコーダーでできるムーブ機能ができないなんて・・」(CMでやっているのは古畑さんっていう「人」ではないと思うが(汗;)、それはさておき)
既に活用しているユーザーにとっては厳しい現実と言えるだろう。
スゴ録がムーブ機能に対応していない理由について明瞭な答えはないが、ソニーとしてはデジタル放送チューナー搭載製品ではない現在のスゴ録については、そこまでの機能は必要ないと判断したようだ。
■1回だけ録画、まぎらわしい
ちなみに「1回だけ録画可能」な番組という呼び方はいささか紛らわしいと日本記録メディア工業会などは懸念しているようだ。それは啓蒙チラシ「新しいデジタル放送番組のDVD録画ルール」に記載されているが、店頭で販売されている録画用DVD‐R/+Rディスクのパッケージなどに記載されている「1回録画用」というひとこと標記と混同してしまわないか、ということ。
同チラシには「録画用DVD‐R/+Rディスクに記載の「1回録画用」は、「録画が1回だけ可能なライトワンスであり、一旦録画した映像を消すことはできない、つまり消して再度録画することはできない」という「追記型DVDディスク」の特性を示す表示です。BS/地上デジタルテレビ放送番組の原則「1回だけ録画可能」とは意味が違いますので、お間違えのないようにご注意下さい。」と記載して、メディア購入者が誤解しないようにつとめている。
パッケージに「1回録画用」と書かれているDVD‐R/+Rディスクこそ「1回だけ録画可能」な番組を録画することができないメディアだから、要注意なのである。
やっとはじまったばかりの地上デジタル放送。普及はまだまだ。ただ、技術的な進歩は進み、時にユーザを不安にさせる。今回のケースもそのひとつだ。実際にはまだ導入していない人、導入できる地域に住んでいない人が大半だから、CPRM対応かどうかで一喜一憂するのは時期尚早という見方もあるだろう。しかし、デジタル放送へ時代は向かっていて、当事者となる人は少しずつでも増えていく。当事者にとっては対応か、非対応かは、それすなわち「0」か「100」なのである。そして、CPRMやコピーワンス機能など、今の一般ユーザーにとっては解りにくい技術やしくみ、それを解りやすく、便利なノウハウとなるように伝えていくのは、協会やメーカー、我々マスコミの仕事だろうと思う。 |