前回は企画とは何かを話しましたが覚えているかな。多くの人が企画とはデザインやアイディアに関する能力だと思っていたかも。しかし、企画とはもっと泥臭いもので、ひらめきや思いつきではなく、情報収集と状況判断、そして計画立案とその実行力がキーとなっているんだね。もちろん企画マンにはアイディアは重要な要素のひとつではあるんだけど、アイディアの良さはプロジェクトの進行やヒットとは必ずしも直結しないもの。アイディアを具現化する計画力と実行力こそ企画マンにとってビジネスとして大切な要素なのだ。そのへんは詳しく『よくわかる最新Webプロデューサーの基本と極意』で解説しているので読んでね。
さて、Webプロデューサーの仕事はそんな企画から始まる。まずはクライアントを訪問し、オリエンテーション(オリエンと略す)を受けるところからはじまる。営業がオリエンを受けてきて、それをWebプロデューサーに引き継ぐというパターンもあるけれど、できるだけクライアントから直接話を聞き、「質問」することが大事だ。オリエンテーションはなぜ行われるか。それはWebサイトを構築する「目的」と、それを達成するための方法やイメージ、制作の予算や期間などを確認するためだ。何の仕事でもそうだが、この「目的」が最も大切だ。上手なプレゼンテーションで必ず冒頭に登場する「GOAL」である。この「GOAL」がはっきりしていないプロジェクトが実に多い。それでは作るモノも作れない。なにをとれだけ売りたいか、どんなお客をどれくらい集めたいか、そういったことが本来GOALである。しかし、実際は「ダイナミックな動画が楽しめるサイトを作りたい」とか「地域住民に便利なサイトを作りたい」など、手段がさもGOALのように設定され、プロジェクトが進行するケースが多いのである。こういうサイト作りは失敗する。
オリエンを受けてWebプロデューサーは企画書やプロポーザル(提案書)を作成し、プレゼンテーション(プレゼンとよく呼ばれるよね)を行う。これで受注の可否が決定する。企画書やプロポーザルの作成に取りかかる前に、情報収集をするべきだ。情報化社会にとってなぜ情報収集が必要なのか、すでにオリエンでクライアントから得た情報では不十分なのか。その鬼門に対する答えはこれだ。
『よくわかる最新Webプロデューサーの基本と極意』本文より
■事実と所感(情報は多面体)
オリエンテーションでクライアントからWeb制作に関する概要や製品情報などをヒアリングし、多くの情報を持ち帰った後で、次は企画立案に入ります。しかし、オリエンテーションで得た情報だけを素にして企画立案に進もうとするのは間違いです。次になすべきことは、クライアントから提示された情報やイメージ、認識が本当に正しい情報であるかを確認をすること、すなわち「裏取り」です。
裏をとる真の意味はクライアントからもらった情報を疑うからではなく、より詳しい情報を得ること、より多くの見識を得ること、市場における生の声に触れること、です。更に言うと「事実」と「所感」を見極めるためです。そして「所感」は様々な角度から分析する必要があります(ここでの「所感」には「推測の情報」も含めています)。
情報は多面体です。見る方向によって全く変わってしまいます。特に人間の所感が入った情報は千差万別です。様々な角度からみた情報を得て総合的に判断するべきです。例えば、プロ野球の阪神-巨人戦が行われたとします。試合の結果や個人の成績は唯一無二の「事実」です。しかし、そのゲームを見た「所感」(印象)は巨人ファンと阪神ファンによって違うはずです。また、ファンのひとりは「明らかに勝てる試合を采配で落とした」というかもしれませんし、別のファンは「故障者が多くて戦力不足だ、負けて当然」というかもしれません。ファンの中でも意見は様々です。更にグラウンドにいた選手のひとりは「チーム全体に勝とうという気力がない」というかもしれません。所感という情報は実に多彩で、ひとつの所感をもとに物事を判断すると間違いを犯してしまうでしょう。
このように情報を取り扱うプロの鉄則として、まず「事実」と「所感」は分けて考えなければなりません。オリエンテーションで得た情報はどれが事実でどれが所感でしょうか?
区別が付かないものも多いでしょう。それをインターネットで調べ、所感を事実に変えるのです。
つまり、事実と所感は明確に見極め、事実を元に立案しなければならないのである。本書ではここで企画とブランド構築に関する考察を更に探求している。
考察のひとつは、売上を上げるにはメニューを増やすという戦略である。
あるやり手のマネージャがつぶれそうな大衆居酒屋を任されました。彼は立地条件や店の出入り口、看板、店の雰囲気、メニュー、顧客の数や回転率などをひと通りチェックした後、この大衆居酒屋を盛況にするための3つの目標を立てました。3つの目標とは、お酒や料理のメニューを現在の3倍に増やすこと、最も人気のあるメニュー5つの価格を周囲の他店より圧倒的に安く設定すること、ここでしか飲めないお酒をメニューに追加すること、でした。(中略)
優秀な企画マンとそうでない企画マンの違いは、ゴールを中心にして考えるかどうか、という実に単純なことです。例えば、先の例でいうと3つの目標には3つの不安が付いてきます。つぶれそうな居酒屋の現状を目の前にすると「メニューを増やすなんてコストがかかることは博打のようなものだ」「むしろ減らすべきではないか」と不安に感じるのが普通でしょう。次に、最も人気のあるメニュー5品とはすなわち"売れ筋商品"、稼ぎ頭です。それらを値下げすることは直接の売上低下に繋がる、ことに不安を抱くでしょう。そして最後に周囲の店で扱っていない商品は大量には売れないニッチな商品であり、それを取り扱うのは在庫リスクを増やすだけだ、という不安です。この意見はどれも正しいことで、現状を考える上でのできない理由や障害としては事実なのでしょう。しかし、これらの意見はリスクとして考慮すべきであっても、決してゴールを設定する際にとらわれてはいけない事柄です。企画立案とは冒頭に説明したように成功のために達成すべきゴールを決め、そのプロセスを埋めていく作業です・・・。(以下つづく)
最近ではワンストップ・サービス、ワンストップ・マーケティングに代表される販売戦略の手法だ。この考え方を理解しておくことは販売企画の基本である。ところが一方で、ブランド構築という視点からいうと、メニューの拡大はブランドイメージを下げる結果となるのである。この相対する理論に企画マンは常に対峙しながら戦略と計画を練っていかなければならない。
これは前述のメニューを増やして売上を拡大する戦略とは全く正反対の理論です。専門分野に特化することでブランド力は向上し、商品ラインアップの拡大は専門性が薄れてブランド力を低下させるといいます。例えば「ブランディング
22の法則」(アル・ライズ/ローラ・ライズ著)という書籍の中で、チャールズ・ラザルス氏の成功事例が紹介されています。同氏は事業をはじめたとき子供用家具と玩具を販売していました。あるとき店をもっと大きくしようと考えた際、取り扱い商品カテゴリー数を増やすのとは反対に、意外にも商品棚から家具をなくし、玩具だけに特化することに決めました。家具をなくして空いたスペースに玩具を豊富に並べ、店舗をおもちゃの専門店に変貌させたわけです。この戦略はみごとに的中し、今では全米で有名な玩具の販売店になりました。現在の「トイザらス」(トイズ・アー・アス(おもちゃこそ私たち))です。筆者が住む町にも「トイザらス」がありますが、おもちゃを買いに行こう、と決めたらまず「トイザらス」の名前が頭に浮かびます。それは専門店だからであり、品揃えが桁違いに豊富であり、それこそがブランドであるからです。
Webプロデューサーという仕事が人気職種になりつつあるようだ。これから数年の間、Webサイトの重要性はますます大きくなるだろう。それとともに様々なニーズが生まれ、多様化し、Webプロデューサーの役割は大きくなっていくにちがいない。Webや企画、マネジメントに興味のある人にぜひ読んで頂きたい一冊だ。
次回からはDVDについての大特集です。
■よくわかる最新Webプロデューサーの基本と極意
神崎洋治、西井美鷹著
秀和システム 1,800円。
コンセプトメイキングからデザイン、運営管理からマーケティングまで。「趣味」ではない「仕事」としてのWebをプロデュースする。
「Webプロデューサー」という仕事が「特殊なカタカナ職業」として扱われていた時代は終わり、最近では「Webは誰にでも作れる」というイメージが強まり、会社のWebも「外注」ではなく「自社内でプロジェクトを立ち上げる」というケースが主流となってきています。本書は、誰もがなれる「Webプロデューサー」について、わかりやすいイラストと共に最新事項が無理なく理解できる、ビジネスマン必読の書です!(秀和システムの内容紹介より)
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